CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL.
Case 28-2015. A 32-Year-Old Man with Fever, Headache, and Myalgias after Traveling from Liberia.
N Engl J Med. 2015 Sep 10;373(11):1060-7.
Biddinger PD, Hooper DC, Shenoy ES, Bajwa EK, Robbins GK, Branda JA.
2015年10月14日
その2
その1からつづき
かわうそ:病院では、陰圧室に隔離されています。訴えとしては、頭痛がけっこうひどいこと、倦怠感、嘔気、食欲不振くらいですね。既往歴もケガ以外は特にありません。今回の海外派遣にあたって、きちんとワクチンを一通り打っています。さらにリベリアのあたりはマラリアの浸淫地らしいですので、ドキシサイクリンを予防内服しています。ただし、これは帰国後もけっこう長く飲まないといけないらしいのですが、やめていますね。あとはアレルギーも内服薬も、気になる生活歴もないですね。動物の接触歴もなし。
趣味は、アフリカ、中東、コーカサスの旅行のようです。9.5年前にけっこう長期間旅行したと書いてあります。大学の時なんでしょうか。羨ましいですね。私なんて、しがらみさえなければ、すぐにでも失踪して放浪したい人間ですから。出家遁世が望みですよ?
きりん:私たちがしがらみになりますので、仕事投げ出さないで下さいね。
かわうそ:あ、ありがとうございます。(T-T)
今回の派遣の時も、暇な時はMonrovia(リベリアの首都のようです)とかいろいろ旅行したようですが、仕事以外でエボラウイルス感染はなさそうということです。
ただし、蚊は多いです。よく刺されたとわざわざ書いてあります。
さて、この人のエボラ出血熱感染のリスクは実際どれくらいなんでしょうか?
まずはエボラ出血熱を疑うべきかどうかについての基準があります。流行地からの帰国者で、発熱があって、さらにひどい頭痛、筋肉痛、嘔吐、下痢、異常な疼痛、そして説明不能の出血のうち1つ以上の症状です。この患者さんの場合は、発熱、頭痛、筋肉痛が当てはまりますね。
さらにどれくらい感染の可能性が高いのか、というのも基準があり、Table 1にまとめてあります。この症例では、「low but not zero risk」となります。ちなみに、直接患者さんと会ったり、体液に接触したりすれば、high riskになってしまいます。
この運び込まれた病院も、医療資源に余裕があって、こういう特別な感染症にいつも対応しているわけではないです。日常業務をこなしながら、さらに非常時に対応しないといけないわけで、ここから先は、報告というか愚痴というか、むしろ自慢みたいになっています。
まずは、対応する場所の確保です。ICUの廊下の一画を改装したみたいです。スタッフも集めています。看護師32人、医師16人です。前もってPPEの使い方を練習していた人々です。なるほどなって思うのですが、PPEは着て脱ぐことだけ練習すればいいってものではないですよね。宇宙服みたいなのを着た上で診察したり検査したりしないといけないんです。聴診はできませんし、採血や静脈ラインとるのは大変そうですね。
かば:下手したら中心静脈カテーテル挿れなきゃいけないんですよね…。
かわうそ:phlebotomy、静脈切開術という聞き慣れない単語がわざわざ使われていますので、ライン確保ですら単なる穿刺ではないんでしょう。
エボラの場合には、食事できなかったり電解質バランスが崩れたりもしやすいらしいです。今回も、輸液だけでなく経腸栄養も用意していたと書いてありました。この患者さんは元気ですので、実際には使われなかったのですけど、場合によっては、ライン確保だけでなく経鼻胃管や、もっと言えば挿管人工呼吸管理、透析などの可能性もあるわけですよね。こう考えると、動画見ながら着る練習してるだけでは全然足りないですよ。
あと、使用して汚染されたものをどう処分するかというのも大きな問題です。物品の流れについてもきちんとシミュレーションして、専任のスタッフを指名したと書いてあります。
かば:「情熱大陸」で感染症センターでもこんなのやっているっていう話みたことあります。
かわうそ:あ、そうなんですか。知りませんでした。こんなに準備していたんだなって思うと、面白いですよね。
ようやく検体を採取したあとも、まだまだ受難は続きます。検査もやっぱり大変です。直接体液を扱うので。
さて、この時点でみなさんどう思っていますか?鑑別診断はできていますか?
その3へつづく