2015年11月18日

エボラ出血熱疑い患者を診るということ その4

ようやく大団円です。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL.
Case 28-2015. A 32-Year-Old Man with Fever, Headache, and Myalgias after Traveling from Liberia.
N Engl J Med. 2015 Sep 10;373(11):1060-7.
Biddinger PD, Hooper DC, Shenoy ES, Bajwa EK, Robbins GK, Branda JA.

2015年10月14日

その4

その3からつづき

かわうそ:というわけで、抗マラリア薬を使いました。イヤーノートに載っている薬と全く違うので、よくわかりませんけど。薬を使ったあと、一日だけ症状が悪化したようですが、その後はだんだん元気になっています。本来、エボラの検査は何度も行う必要があるようなんですが、ここではマラリアの診断加療がうまく行っているので、4日目にもうエボラの検査はやめています。
で、隔離解除されて、ふふっ、「The patient was embraced by many members of the care team」ということで、みんながよかったね、と患者さんを祝福しているんですよ。こういうの書いてあるのはけっこういいな、と思います。感動的です。

きりん:おー。

かば:いいですね。

かわうそ:自分ならどうしてるかな、と考えると、たぶん用もないのに3週間きっちりと隔離して、腫れ物扱いしてるような気がしてます。反省します。

この後経過を追っていくと、また発熱したりしているんです。で、それは別のマラリア感染だった、というオチがついていたりするくらいレアなケースなんですが、今回そういうのはもういいです。続きの展開でそういうネタが霞んでしまっているんです。

実は最後にご本人が登場しています。

きりん:えーっ。

かわうそ:「The patient is here today」とあります。お宝文献ですね。わざわざ来てくれて、今回の件について語ってくれています。これはぜひ紹介したいです。
この人はエボラ出血熱の専門家ですよね。3ヶ月見てきたわけですから。だから、最初は自分はエボラウイルスには感染していないという確信があったみたいなんです。症状はそうかもしれないけど、接触していないし。でも、電話をかけると宇宙人がやってきて、自分を隔離するためのユニットが作られたり、さらにニュースにもなってしまったのを知ると、「やばい、俺、エボラかも…」と思い始めてしまったらしいです。

かば・きりん:はははっ。

 かわうそ:ただ、病院の対応がすごくよかったらしいです。不安に対してきちんと説明して落ち着かせてくれたと感謝しています。

あと、アメリカでの手厚い看護と、それまでいたリベリアでの設備のない状況とを比較すると、その落差に考えさせられるといっています。
もともとリベリアには、今回のアウトブレイクの前には50人くらいしか医師がいなかったようです。
また、西アフリカで亡くなった300人以上のヘルスケアワーカーのうち、なんと180人がリベリアで亡くなっています。
そういうの聞くとせつない気持ちになりますね。

きりん:なるほど…。

かば:うん…。

かわうそ:最後は、とりあえずいい経験だったといって話を締めています。
なにせ、本人の証言が聞けたところがうれしいですね。面白いです。

きりん:いい経験だったといえるところが強いですね。

かわうそ:教訓としては、エボラ出血熱に対応するというのは、マラリアなどその周囲の疾患にも対応するということなんですよね。エボラ出血熱の検査キット準備してます、じゃダメなんですって。

もう一つ、私はアメリカという国はそんなに好きでないんですが、やっぱり偉いなと思いますよね。エボラが否定されて隔離が解除された時に、みんなで患者さんを祝福していますよね。こういうところに、NGOでエボラアウトブレイクに対応するためにがんばっていた人に対する敬意を感じます。
これが日本だったら、「なんで今そんなところ行って、日本に迷惑かけるようなことするの?」とかいう雰囲気が出まくりですよね。でも、もし自分にこういう症例が降ってきたら、やっぱり迷惑にかんじているかもしれないな、と想像してしまいます。反省しました。