2015年11月24日

肺炎こわい その1

おなじみMGHの症例検討、問題編です。病歴まで示します。

CASE RECORDS of the MASSACHUSETTS GENERAL HOSPITAL.
Case 32-2015.
A 57-Year-Old Man with Severe Pneumonia and Hypoxemic Respiratory Failure.
N Engl J Med. 2015 Oct 15;373(16):1554-64.
Mansour MK, Ackman JB, Branda JA, Kradin RL.

2015年10月28日

その1

かわうそ:これはこわい症例です。特に私たちにとっては。読んでて胃が痛くなってました。

かば:えーっ。これが唯一の気分転換なんですけど。

かわうそ:生来健康な57歳の男性が、冬に重症肺炎と呼吸不全で入院しました。経過は早いです。3週間前に発熱、筋肉痛、関節痛、上気道症状が出てきたようです。1週間後、症状がよくならないのでかかりつけ医に行ってインフルエンザの検査をされて、陰性だったのですが、とりあえずインフルエンザだろうということで。まあ冬ですしね。でも1週間たってるので対症療法をされたようです。
でもよくならないので、翌日別の病院に行きます。レントゲンをとったら肺に影があるといわれてセフトリアキソンの点滴とアジスロマイシンを処方されて帰りました。でも、また2日たってもよくならない、症状が続くということで、病院に行きます。ここではステロイドと鎮咳薬を出されています。
さらに2日後、感染症専門医をようやく受診しました。39度の発熱が続いて消耗しており、アセトアミノフェンを飲んでも解熱しない、血痰なんかもありますし、咳と胸痛で眠れていません。

かば:ふんふん。

かわうそ:この時点で頻脈、高血圧、頻呼吸、SPO2低下(94%)、呼吸音の聴診でcoarse cracklesを認めています。血液検査は、白血球が2万、Bandも13%で核の左方移動があります。

かば:血小板も多いですね。炎症!って感じですね。

かわうそ:そうですね。この後の経過も載ってますが、どんどん増えていきますね。
あとは腎機能が悪化していって、アルブミンが下がっていって、という感じで、どんどん状態が悪くなっていくんだな、と暗澹たる気持ちになります。
あと、やっぱり血ガスですね。どんどんPHが下がって、CO2が上がってという感じです。

かば:突然悪くなっていますね。あ、人工呼吸されていますね。

かわうそ:そうですね。前医入院中にNIVが始まって、その後すぐ挿管になっています。
と、まあそういう感じの人です。ようやく入院して、セフトリアキソンとモキシフロキサシンが始まりました。

かば:さすがにもうちょっと早く入院していれば、と思いますね。

かわうそ:このあたりのレントゲン写真も見てください。最初左肺にあった浸潤影がだんだん広がっている様子がわかります。右肺にも淡い陰影がありそうですね。側面像から左上葉とわかります。

かば:最初のレントゲン写真の段階でかなりひどいので入院させていてもおかしくないですね。

かわうそ:日本とずいぶん違います。
というわけで、セフトリアキソン、アジスロマイシン、モキシフロキサシンなどが投与されているにも関わらず、一向によくならない肺炎というわけです。

かば:まだメロペネムが入っていないのもすごいですね…。

かわうそ:そうですね。
ま、このあとでようやくバンコマイシンとかイミペネムが始まっています。

かば:ふふふ。

かわうそ:でも、酸素化が悪くなってきています。そして、気管支鏡を行っています。膿性の喀痰があって、でも粘液腺や閉塞などはなかったようですね。培養では何も生えてきませんでした。このあたりは、あとで問題になってきます。心臓の方もエコーで異常なしです。心源性の疾患は否定してよいです。
先程もすこし触れましたが、NIVが始まって、ちょっと良くなって、でもだめで挿管されて、用量は書いていませんがメチルプレドニゾロンが点滴されています。
この段階で、家族の希望で、MGHに転院になっています。
抗生剤の他、筋弛緩薬、利尿薬、抗血小板薬、抗凝固薬とかもすでに投与されています。
何か追加する治療ありますか?

かば:全部入っていると思いますけど…。IVIGとか?ウイルス性を考えて。

きりん:抗真菌薬とか?

かば:でも、培養検査で検出されていないんですよね。で、もともと既往に免疫抑制もないんですよね?なら、PCPとかも考えにくいですよね…。

かわうそ:既往としては痛風があって、時々鎮痛薬を飲む程度です。アレルギーなし。家族も仕事もあって、喫煙者ですが、怪しげな生活習慣はありません。
エンジニアの仕事の関係で、最近日本やインドネシアに旅行に行っています。
住居はNew Englandの半分田舎ってかんじのところのようです。
入院の1ヶ月前、St. Lawrence渓谷にレジャーで行っています。ちょっと怪しいですかね。
家族歴にα1アンチトリプシン欠損症があるようです。

かば:でも、むしろ高いくらいですね。

かわうそ:身体所見としては、もうやばいですね。ショック状態、徐脈、頻呼吸、全身浮腫です。腎機能もだんだん悪くなって、尿所見にも異常あり、レントゲン写真も悪化の一途をたどり、血ガスも目を当てられないです。
また、喀痰グラム染色で有意な細菌は検出できず、アデノ、パラインフルエンザ、RS、インフルエンザは陰性です。診断の手がかりがありません(×_×)

かば:他人事ではないですね。

かわうそ:これを送られてこられたら震えますね。さて、ここで鑑別診断をあげましょうか。

その2へつづく