24歳の生来健康な女性の、突然の左足の痛みです。
やっぱり再発しました。
CLINICAL PROBLEM-SOLVING. The Hidden Lesion.
N Engl J Med. 2016 Jun 2;374(22):2160-5.
Lee AI, Ochoa Chaar CI.
2016年6月10日
その2
その1からつづき
CLINICAL PROBLEM-SOLVING. The Hidden Lesion.
N Engl J Med. 2016 Jun 2;374(22):2160-5.
Lee AI, Ochoa Chaar CI.
その2
その1からつづき
かば:それにしても、こんな若い女性に突然発症しますかね?ランニングしているくらいですし、動かないでじっとしているような人ではないと思います。これまでの話ではリスク要因がなさそうです。
凝固能の亢進とか、血栓の原因を探るべきなんじゃないですか?
かわうそ:たしかに。すぐに診断できて治療できてラッキーと思っちゃダメですよね。「妙に変だなー」と思って背景を探りましょう。
では、どんな病歴を聞いたり、追加の検査をしたいですか?
かば:妊娠とかピル内服とかですね。あと、喫煙歴とか。アメリカならこういうときイリーガルドラッグを使っているかどうか熱心に聞いてますよね。
旅行とかも必要ですね。変わったところに行ったかどうかだけでなく、長時間動けないようなイベントがあったかどうかがわかると思います。
血液凝固関係の既往、家族歴も知りたいところです。血管炎など膠原病とかも?
かわうそ:さすがですね。どんどんでてきますね。
実はピルは飲んでいます。喫煙歴ありますが、2年前にやめています。飲酒はほどほどだそうです。
父親が関節鏡での膝の手術のあとでDVTになったということなので、ひょっとしたらこれは遺伝性の血液凝固異常と関係があるのかもしれません。ただ、そうでないかもしれない、という歯切れ悪いコメントが載っています。
どうやら、初回の発症なら、それほど精査は要らないのではなかろうか、というのが筆者の意見のようです。それはそうかもしれません。
ただ、主治医の先生はこの時点でいろいろ検査を追加しています。血液凝固能の検査や遺伝子変異などです。
どうやら、ループスアンチコアグラントが陽性に出たといっています。プロテインCだとかプロテインSだとかも当然のように測定されていますが、このへんは本当に弱い分野ですのでコメント差し控えたいと思います。
そして、残念なことに、退院後5日目に同じ症状で受診しています。エコーでも血栓を確認しました。Fig 2によると、総腸骨静脈から膝窩静脈までずっと血栓が詰まっているようです。
かば:すごい血栓っぷりですね。完全閉塞ですね。ヘパリンが入っているんですよね?それなのにこうなってしまうのは、さすがにおかしいですね。
何か血管の流れを障害させるような腫瘤があるのかもしれません。
かわうそ:でも、CTとっているわけですからね。さすがにそういう腫瘤病変があればわかりそうです。
あと、ヘパリンが本当に治療域に入っているかどうかは調べておくべきですけど、さすがに大丈夫だったと書いてあります。
かば:血管炎はどうでしょうか。
かわうそ:そうですね。あと、抗リン脂質抗体症候群とか、ベーチェット病とか。occult tumorで凝固しやすい状態になっていないかはチェックしておきたいところだと書いてあります。
そして解剖学的異常です。May-Thurner症候群をあげましょう。知ってました?
かば:前、勉強会で出てきましたね。調べた覚えあります。
かわうそ:腸骨動脈が腸骨静脈を圧迫するんですね。ちょっとこの辺りの解剖がよくわからないのですが、「左」総腸骨静脈が「右」総腸骨動脈と交差する部分の問題が一般的なようです。だから左に症状がでることが多い疾患です。
というわけで、ここでもう一度CTをよく見なおしてみました。でも、やっぱり腹腔内、骨盤内に腫瘤病変やリンパ節腫脹、総腸骨静脈の圧迫などはありません。
でも、血管炎なんかは画像で見つけるのは難しそうですね。
しかたがないので(?)、もう一度カテーテルでの血栓除去をして、血管は開通しています。
そうこうしているうちに突然血小板数が15万くらいに下がっています。もともとが30万くらいありましたので、一気に半分になったことになります。
かば:HIT、heparin induced thorombocytopeniaですね。未分画ヘパリンを使っていたんでしたっけ?
かわうそ:実はHITかどうかを診断するための検査というのがいろいろあるみたいです。私は全然知りませんでしたけど。HPF4抗体を測定したり、serotonin release assayとか。ここでは、この辺の検査をしてHITではなかったという診断になっています。でも、なんだかんだでヘパリンから別の薬に変えたところ、血小板数は回復したし、足の腫れも引いてきたのでめでたしめでたし、ということでワーファリンの内服に変えて退院しました。
かば:ここで退院していいのか、というところは疑問ですよね。
かわうそ:そうですよね。治療はうまく行ったのかもしれませんが、原因を追求せず返してしまうと、たぶん3回目がありますよね。
まあ、「要らないんじゃないの」とか言われながらも、下大静脈フィルターが留置されていますので、再発したとしても足が腫れる程度で、肺塞栓など致死的な疾患は回避できると思ったのかもしれませんけど。
その3へつづく