2016年7月27日

隠れた病変 その3

NEJM、clinical problem-solvingです。
24歳の生来健康な女性の、突然の左足の痛みです。
最終回です。ようやく診断できました。

CLINICAL PROBLEM-SOLVING. The Hidden Lesion.
N Engl J Med. 2016 Jun 2;374(22):2160-5.
Lee AI, Ochoa Chaar CI.

2016年6月10日

その3

その2からつづき


かわうそ:案の定というか、3ヶ月後に再診した時に、左足の腫れを訴えています。この時大腿周囲径を測定してみたら4cmもの左右差がありました。

かば:腫れてるとか赤いとか、主観的な記載だけでなく、こういう客観的な指標をカルテに残せればかっこいいですね。

かわうそ:コンサルトしやすいかも、です。
さて、腫脹の原因として、こういう症例で血管が開通した後に一過性に腫脹することもありうる、だから治療失敗ではない可能性もある、と慰めのようなコメントが載っていますが、基本的にはreccurenceと言ってよいでしょう。
ちなみに、我々がこういう疾患を見た場合、圧迫帯とか弾性ストッキングとかでとりあえず対応しがちですけど、予防効果としては限定的だ、と寂しいことが書いてあります。

で、ドップラーエコーをしてみたところやっぱり閉塞しています。血管径の呼吸性変動が消失していて、相当中枢から詰まっていることが予想されました。
さて、次する検査はどうしましょう?

かば:・・・。

かわうそ:もうすでに我々が当直で診るレベルを超えていますので、わからなくて当然ですし結局専門科に任せることになるんでしょうけど。まあ、循環器科なのか血管外科なのかわかりませんけど。

最終的には、総腸骨静脈にステントを入れました。Figureを見てみると、ステントを入れる前後での血管造影の写真が載っています。ステント留置前には、本来あるべきところに総腸骨静脈が全く認められず、代わりに側副血行路が山程見えています。留置後にはきちんと総腸骨静脈が造影されて側副血行路が見えなくなっています。

かば:これ全部側副血行路ですか…。
で、次の図が血管内エコーですね。

かわうそ:まず、総腸骨静脈がなんとか開通した状態で検査しています。すぐ近くに総腸骨動脈があります。やっぱりこれが圧迫していたようです。というわけで、やはりMay-Thurner症候群ということです。
CTの時は、閉塞していたため診断できなかったんでしょう。血管内エコーで診断できた症例でした。

いくつか教訓的なポイントがあると思います。

まず、外傷とか蜂窩織炎とかの診断に飛びつかず、より致命的になりうる深部静脈血栓・肺塞栓を疑っておくこと。
特に、呼吸困難や頻脈という微妙な情報をおかしいと思うこと。
深部静脈血栓症と診断した場合、この人に発症することが典型的といえるかどうか、リスク因子を検討すること。
くらいが挙げられるでしょうか。

そういえば、この人が深部静脈血栓症のリスクが低いといえるほど活動的かどうかという点については、私は少し疑問に思っています。
というのも、このCTの写真をみると、かなり体格がよいと言わざるを得ません。

かば:画面いっぱいに皮下脂肪がありますね。

かわうそ:2日前に5km走ったっていうのも、本当は久しぶりの運動だったのでわざわざ言ったのかもしれません。
だから、1回目に発症した際には、肥満だししょうがないかも、と思ってしまうかもです。
でも、2回目に発症した時にはしっかりと診断して、3回目の発症を防ぎたいところです。

かば:May-Thurner症候群はけっこうこの勉強会で名前出てきますよね。

かわうそ:実際、昔はDVTの数%に見つかるだけ、とされていたのが、血管内エコーをするようになったことで半数以上でMay-Thurner症候群が診断されるという報告も引用されています。
疑って検査しないとわからないわけですし、相当見逃されているんでしょう。血管内エコーという診断器具の出現により、新しくトピックになっている疾患なのではないでしょうか。