2016年7月20日

隠れた病変 その1

NEJMのclinical problem-solvingを読みました。
24歳の生来健康な女性の、突然の左足の痛みです。
とりあえず前半戦です。

CLINICAL PROBLEM-SOLVING. The Hidden Lesion.
N Engl J Med. 2016 Jun 2;374(22):2160-5.
Lee AI, Ochoa Chaar CI.

2016年6月10日

その1

かわうそ:2日前に5kmくらいのランニングをしたのでそのせいかとも思ったらしいのですが、こむら返りのような痛みが左足にあって、おなかやおしりにまで広がっているとのことです。
でもよくみると足が腫れているし、労作時の呼吸困難もあるようなんですよね。
発熱、胸痛、安静時呼吸困難はありません。走ったからといって、ケガをしているわけでもありません。
バイタルはほぼ正常ですが、頻脈(102/分)だけがあってちょっと気になります。

足の腫れについては、診察上、ふくらはぎから大腿にかけて、びまん性に発赤、浮腫を認めました。

さて、この病歴を聞いて、どんな鑑別診断をあげて、どんな検査をしますか?

かば:深部静脈血栓症を疑って、下肢静脈エコーです。

かわうそ:もちろんそうですね。
ここのコメントには、片側の足の疼痛、発赤、腫脹ならまずは外傷とか蜂窩織炎を考えろとのことです。
でも、所見とはちょっと合わないですし、この方には胸痛の訴えはないものの、しっかりと呼吸困難があるので、深部静脈血栓・肺塞栓を念頭に置くべきですね。だから、エコー、造影CT、D-dimerをやっています。

さらに、この方は腹痛もあるので、血栓の原因として、腹部の血管を圧迫するような病変があるのでは?と疑っておくべきだ、とされています。ただ、ここまで考えられるのはちょっとレベル高いですよね…。

さて、深部静脈血栓・肺塞栓についてはWell's scoreというものがあって、これをスコアリングして疑わしければ侵襲的検査にうつるようです。
私はこの基準は知りませんでしたが、けっこう常識的なものです。外傷があるとか、長期臥床があるか、血栓傾向やそういう薬剤使用歴があるかとかの項目があります。

さて、次はCTの写真です。読影してもらおうと思いましたが、これはすぐに分かりますね。血栓が両側下葉にいく血管内にたくさん見つかりました。
なんなら、肺野にも肺梗塞を疑うようなwedge shaped infarctionが左の肺底部にあります。

そして、ドップラーエコーで左下肢に血栓がみつかりました。その他、トロポニンT、BNP、血球数、PT、APTTなど含めて血液検査では特に異常なしです。
で、治療はどうします?

かば:抗凝固です。ヘパリンですね。

かわうそ:出血が否定されるなら、検査の結果をまたずにエンピリカルにはじめてもいいくらいだとエキスパートオピニオンで言っています。

この症例では、抗凝固療法だけでなく、下大静脈フィルター留置と、カテーテル下での血栓溶解除去治療をしています。

実はカテーテルでの早期の血栓溶解除去についてはエビデンスがあるようですが、フィルター留置についてはそうでもないというコメントが載っています。
フィルターを留置するのは、状態が悪くて抗凝固ができないような人に予防的に行うものとされているようで、この方の場合は当てはまりません。

とは言え、速やかに診断と治療に成功しており、めでたしめでたしと言いたいとこですが、まだ前半なんですよね。


その2へつづく