2015年9月8日

病歴聴取について その1

Clinical problem-solving. A history lesson.
N Engl J Med. 2015 Apr 2;372(14):1360-4
Barbee LA, Centor RM, Goldberger ZD, Saint S, Dhanireddy S.

2015年8月20日

その1

かわうそ:今回は病歴聴取を熱心にやりましょうという教訓回です。
34歳の男性。3日間の喉の違和感で受診されました。ちょっと熱があって、悪寒があって、副鼻腔の圧迫感があって、時々咳がでて、倦怠感が強い。呼吸困難とか頭痛、体重減少、胸痛、腹痛などはないというわけです。
まあ、これは急性咽頭炎ですよね?

きりん:はい。

かわうそ:鑑別するとしたら、A群β溶連菌なのか、ウイルスなのかというところですね。咳がでているというところからすると、細菌性よりはウイルス性でしょうか。このコメントの部分は感染症のDrが書いているようなので、やっぱり偉いなと思うんですが、ウイルス性だとしたらそれが何なのかも考えろと。インフルエンザなのか単純ヘルペスなのか、とか。倦怠感が強いようなので伝染性単核球症も考えておくようにとのことです。
さて、追加の情報ですが、既往歴としては注意欠陥多動性障害とうつです。子供の時喉が弱かったと。それでメチルフェニデートとSNRI、睡眠薬を飲んでいるようです。喉の症状に対し、PPIを薬局で購入したようです。あと、ペニシリンアレルギーがあると言っています。ここは、あとで効いてきます。過去喫煙あり、機会飲酒、マリファナ使用者だが違法薬物の静脈注射はしないとのことです。何か矜持があるんでしょうか。あと、19歳までメタンフェタミンを吸っていたということです。現在、Radiation therapistを目指して勉強中です。
この追加情報を得て、鑑別診断に変化ありますか?

かば:題名が”History lesson”で若い男性と言ったら、聞くこと決まってる気がします。

かわうそ:先生さすがですね、毎回思いますが。多分ご想像通りです。
どうやら、メタンフェタミンの吸入は、感染症的にもあまりよろしくないようです。若い男性ということと合わせて考えると、high risk sexual behaviorと強く関係するんです。というわけで、STDについてよく聞いておかないといけない、と書いてあります。
でも、3日間の咽頭違和感できた34歳の男性に対して、ここまで聞くかって言われるとね…。違法薬物使用を聞くのもハードル高いんですが。
ここまでわかれば答えもだいたいわかっちゃうと思うんですが、知識再確認のつもりでもうちょっと続けます。
身体所見がのっています。vitalは全然正常です。身体所見上も大きな問題ないんですが、首のリンパ節がちょっと腫れています。可動性があって、痛くない1✕3cmくらいのリンパ節があります。のども特に問題ないようです。皮膚、関節などまでしっかりと陰性所見が記載されていて、よく3日間の咽頭違和感でここまでしっかりみてるんだな、と感心しちゃいます。
この時点では、採血検査されず、セファレキシン2000mg分4✕10日とイブプロフェンを処方されて帰されました。
この対応についてはどう思います?

かば:セファレキシンいるの?

かわうそ:…。全く凄すぎですね。先生ひょっとしてこれ読まれました?(゚д゚)

かば:読んでないです。でも、昨日こういう患者さん来てましたから。

かわうそ:まさにその通りのことがここに書いてあります。この時点では溶連菌感染の咽頭炎はまったく示唆されないので出してはいけない、するなら迅速検査しろと。もっとも、Centor Criteriaに合いませんね。発熱、扁桃腺腫大、リンパ節腫脹、咳嗽がない。今回は熱しかあたっていません。
今回の症例なら、対症療法だけにしておいて、何かあったらすぐ来るよう指導するのが正しいやり方と言っています。さらに言うとセファレキシンの量も多すぎだ、とか怒っているように読めるんですけど。感染症で抗生剤が多すぎることで文句言われても、って思いますけどね。ちょっとこの先生、感想が攻撃的じゃないですか?(;一_一)

きりん・かば:ふふっ。

かわうそ:6週間後に症状が悪くなって再診しています。きちんと抗生剤は10日間飲んだけど改善せず、リンパ節が微妙に(1.5cm✕3cm)大きくなっています。その他の身体所見は変わりません。
ここでようやく採血して、白血球6500、好中球69%、リンパ球20%、ただし、異型リンパ球はないようです。伝染性単核球症はここで否定されたと考えていいのかなと思います。あとはあんまり問題なさそうです。HIV抗体陰性です。耳鼻科に行ったところ、両側扁桃腫大が分かりました。CT画像があります。さっき身体所見異常なしって言ってたんですけどね。浸出液は出ていなかった。
ここで追加で何をするかっていうのをみなさんに聞いてみたいと思うんですけど。

きりん:パートナーのことですかね?

かわうそ:たしかに。そのあたり聞きたいところですけど…。ちなみに私は今までその質問したことないですね。

かば:私もないです。

きりん:この時点で細菌感染を疑うのでしょうか?

かわうそ:そうですよね。経過が相当長いですからね。初診からすると1ヶ月以上です。
感染症でないとすると、リンパ節が腫れていることから、リンパ腫とかそういう方面にいっちゃいがちなのかな、ということでしょうか。
ここで言われていることは、やっぱりHIVのことです。抗体検査だけでなく、ウイルス量自体を測定するように、だそうです。

かば:6週間っていうのは、感染初期とすると微妙な期間でしょうか?あ、3週間でしたね。

かわうそ:いちおう6週間たっていれば、抗体検査で陽性になってほしいところらしいです。
でも、この時点ではまだ本人からhigh risk sexual behaviorについての情報は得られていないはずなのに、そこまで検査するのか?っていう話です。アメリカならそうですが、この病院ではどうなんでしょうか?

かば:地域性が大きいですね。

かわうそ:で、この耳鼻科の先生は扁桃切除をしちゃってます。hyperplasiaはあるものの、癌とかリンパ腫は否定的ということなんです。菊池病に典型的な所見もないと。
で、ここでのコメントにもまた笑っちゃうんですよね。(・∀・)
「このプレゼンテーションなら菊池病の症状とは一致しないので、生検で菊池病の所見が得られないのはおどろくべきことではない」と書いてあるんです。

かば:すごい。あたりまえじゃん的なコメント。

きりん:冷たいですね。
でもたしかに、もっと若い子で、すごく熱が出て、spike feverで、でもその割にはけっこう元気で、リンパ節がゴリゴリで、とかですよね。

かば:ゴリゴリですよね。この人けっこう触っているのに、ちょっとしかないって言ってますよね。

かわうそ:(二人とも菊池病がサラッと出てくるとは…。)

その2に続く